感想『ウルラの後継者~記憶を失った少女は、実は神の寵愛を受けた魔術的才能の持ち主でした~』を読んでの
題:ウルラの後継者~記憶を失った少女は、実は神の寵愛を受けた魔術的才能の持ち主でした~
作者:夏目 梓
注意書:この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
記憶が不十分なままの始まり。少女は目を覚まします。
主人公クラリッサが覚えていたのは基本的な部分と土地勘だけだったものの、目覚めはベッドの上、屋内で気が付きましたし、屋敷の召使いがそれを確認していたので無事です。
主人公が初めて会う人々はユリアナ・クロスフォードと名乗る侯爵夫人と屋敷の召使いでした。
後々の話を読んでいくと分かっていくのですがこの主人公、記憶が異常な状態で曖昧に残っている節があります。
作中の例を挙げるなら、読んだ本の内容を覚えているのに、いつどこでどのように読んだかを忘れている、というのです。
エピソード記憶とは別に知識としての記憶だけが残っている状態と言えます。
そんな不思議な状態から考察して、主人公は"記憶を失ったことは人為的なことだ"と考えるようになりました。この部分からでもちょっと頭良さそうですね。
誰かが仕組んだことならそれを追求しよう、と主人公のクラリッサは決意を固めたようです。
ここまでで良いと思ったのは"淡々と現状を把握していく"主人公の姿ですかね。
ここから始まる物語に期待できるよう、順々に世界観を拡大していっている所に着目できます。
豊富な語彙もあいまって、読者の理解を誘っていく作風だなと感じさせられます。
と記述について話していくのも良いですが。
ここでストーリーの続きについて触れましょうか。
お話の始まりは一貴族の領地で進んでいきます。
主人公は"記憶のない自分が周りから浮いてしまって、家族の気分を害してしまうのではないか"と強く思い悩んでおり、目を覚まして少しだというのに周囲に気を配り、気を詰めています。
その緊張した状況は主人公の目線で味わってみたいものですが、読み手でもその一部を垣間見れる部分が感情描写に現れています。
言ってしまえば"読者に主人公の感情を共有する"というような書き方がなされており、数奇な運命を辿るような面白さが込められていました。
物語は小さな波のように進んでいきます。
言えば安心、述べれば不安が掻き立てられる展開です。
どこにでも伏線が仕込まれているようでいて探り探りよんでしまうような話は、伏線の予想がたっぷりできるぶん期待をかきたてますが、平和な時間をしばらく続けさせる必要があります。
この作品では急に何か起こるわけではないので、手に入れた期待を掻き立てるように読み手は引きつけれられる。
この独特な雰囲気を気に入る人は多いと思います。
あなたが気に入るかどうか試してみるのも良いでしょう。
タイトルから見るとチート無双ヤッターな雰囲気になりそうとも予想できますが、貴族の生活を覗けるスローライフ系な作品と捉えた方が適切です。
"魔法的才能"については先のお楽しみということらしいのです。まったりと読んでいきましょう。