感想『Fake Earth』を読んでの
題:『Fake Earth』
作者: Bird
注意書:この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
読みやすく、それぞれの文が端的でいて、全体を見ると起点が効いている。
一話目を読み終わるのにそう時間はかかりませんでしたし、内容もすんなり入ってきます。
ですがその中で特筆すべきなのは"読者を引きずり込ませる"書き方でしょう。
一話目の語り手は教師で、世にも奇妙な出来事を体感する始まりです。
この人が主人公なのかと予想していて、かつ第二話の題を読んでいない人であれば騙されたはずです。主人公はまだ登場していない。
しかし世界観はなんとなく伝えられて、読者はがっちり掴んでおく要素も作っている。
それがこの作品の第一話です。
なかなか新鮮な書き出しだと感じました。
サクサク読める作品の多いサイト『小説家になろう』よりも、文芸としての質まで評価される『カクヨム』に合った作品だと思います。
続けますと、第二話以降の展開は落ち着きがあって次を勧めていく流れになっています。
本筋となるゲーム開始までは時間がありますが、ここで読者側も息をつく必要がありますね。
本筋が始まる7話からの流れは緊張が走る別格の読み触りへと変わっていきますから、こういった作品に慣れておらず、先への期待を高めきれていない読者の方は注意すべきです。
シリアスさで言えば肌で感じられるほど、物語を鮮明に想像できる表現のまま話は続きます。
怒涛の展開ではありつつも別の面から面白さを叩きこんでくるタイプです。
シリアスな雰囲気に合った良い展開だと感じましたし、場面の環境や状況なんかも相まって"自然に不自然な出来事"が進んでいく所にもがっちり引き込まれます。
あらすじには書かれていませんが戦闘シーンもあり、予想を裏切るように、場面を引っ掻きまわす切り口で物語へと突入してきます。
よくここまで書けるなと無駄でしかない感想を抱く間はあっても、続く物語には息をつく隙がありません。
読み手にも緊張感の続く良い序盤でした。
しっかり残酷でリアルな表現をしていますが、直接的には書かれていませんので、そこまで想像せず呼んでいけばダークなローファンタジー……これは現代ファンタジーと言えばいいのかな。そう見ていいと思います。
異能バトルでもありますが冒頭は手探りの状態ですし、ジャンルでいう異能バトルとは線引きをして読む必要があるかもしれませんね。
ちなみに一章は二十話まで。
そこまでは序盤も序盤、場面遷移は多めですが大抵の人が行ったことのないような場所は描かれません。
それよりも、個人的には主人公の感情描写だとか、他の登場人物が取る"感情の揺れからきた行動"を高く評価したく思います。
上手いなぁと思わせられましたからね。
おわりに
以上になります。今回はなかなか時間がかかってしまいました。
光るモノがある作品です。一度読んでみると別格だと気づくでしょう。
ただ思ったのが、この完成度で書いた作者さんはどのくらいの時間を費やしたんだろう……という斜め上の発想でしたね。
高い完成度の作品は読んでいて楽しいのですが、物語の裏側を考えてしまう悪癖が刺激されてしまいました。
最後の最後に一つだけ。
会話に違和感、ちょっとだけ。登場人物との会話が詳細すぎるかも……と思いました。
詳しく話すと情景は分かりやすいものの、いつでも多くを話す、という特徴は一般的ではないですから……そこに違和感を持ちました。
この"良い作品にはケチ付けたくなる"感性は良くないですかね?